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H2O Style

カヌー×キャンプ×フライフィッシング
都心から4時間の道北で極上のリバートリップを満喫 Part1

2018.10.22

カナディアンカヌーで自由に川を下りながら、たまに釣り糸を垂れ、腹が空いたら食事をとり、高く澄み渡った空の下で昼寝をする。そんなOVER30(オーバーサーティ)ならではの、のんびり気ままな旅を初秋の北海道で堪能してきた。

目の前に広がる絶景の中、憧れのカヌーに乗り至福の時を過ごす

9月の下旬、都内ではまだ汗ばむような暑さが続く中、ちょっと遅めの夏休みを取り、向かったのは北海道北部の天塩川。日本第4位の大本流でありながら、護岸工事が少なく自然豊かな川だ。短い時間ではあるが、この美しい川でカヌー、キャンプ、フライフィッシングと贅沢三昧の夏休みを堪能しようという目論見なのである。ちなみに自分はカヌー未経験、キャンプはほとんどやらず、フライフィッシングは渓流と管理釣り場でしか経験がない。そのために、どうしても会いたかった人がいる。道北を中心にカヌーを使った水辺のガイドをしているリバートリップキャメル(http://camel-trip.biz)の辻亮多さんだ。自然をこよなく愛するカヌーイストである。

羽田から1時間45分、道北エリアの拠点となる空港だ。クルマで2時間圏内に天塩川、朱鞠内湖、大雪山、美瑛、富良野と多数のネイチャースポットがある。

宗谷本線を北上し名寄に一泊したのち、翌朝、普通列車で旅のスタート地点である美深に向かう。途中、幾度となく通る秘境駅を調べるのも楽しい。

宿泊した名寄から30分ほどで美深に着く。旭川からだと特急で75分、各停の普通列車だと3時間ほど。時刻表を見ると1時間に1本どころか……。

その姿に『雄大』という決まりきったフレーズしか出てこない天塩川。これから大自然の中、この大本流をカヌーで下ると思うと胸が高鳴る。

ルーフトップに赤と緑のカナディアンカヌーがよく似合う。都内じゃまずお目にかかれないスタイルのハイエースで入川ポイントへと向かう。

 

道北の自然をぞんぶんに味わう大人のプラン

今回オーダーしたのは『綺麗な景色の中でカヌーと釣りをして、自然の中で朝を迎えたい』ということだけで、あとは辻さんにおまかせ。その回答が天塩川のカヌーキャンプ&フィッシングトリップだ。釣りで狙うはもちろん天然のニジマス、ワイルドレインボー! そんな大きな夢を抱き、広い川幅、力強い流れの天塩川にカナディアンカヌーで恐る恐る漕ぎ出す。はじめは「失敗できないぞ」と緊張していたが、水面近くでホバリングするカワセミや、空高く飛ぶミサゴ、そして川辺に訪れる秋の気配にすぐさま心を奪われる。いつしか緊張は期待と興奮に変わり、知らず識らずのうちにパドルを操り、のんびりとたゆたうように川を下っていた。

防水バックに荷物を移し替え、カヌーに乗り込みレクチャーを受ける。公園のボートぐらいしか漕いだことがないだけに、慎重にスタートする。

一度カヌーで川に出ればこの大本流・天塩川を独り占めである。あまりに川が大きすぎるため、正直はじめは何をどうすればいいか戸惑う。

途中出会ったフライフィッシャー。とても日本とは思えない景色である。ちなみに二日間のリバートリップで出会ったのは3人のフライフィッシャーのみだ。

手頃な中州を見つけて休み休み川を下る。コーヒーを飲むもよし、川辺を散策するのも、釣りをするのも自由。目的地はあるがタイムスケジュールはない。

産卵シーズンを迎え、太平洋から生まれ故郷に戻ってきた鮭たちが遡上を始めていた。あと数日もすればさらにたくさんの鮭たちが、産卵床に群がるという。

浅瀬の産卵床にゆっくりと近づくと、そこには赤と黒のまだら状の婚姻色をまとった鮭がいた。太平洋を3〜4年の回遊したのちに戻ってくるのだそうだ。

腹が減ったら中州でランチ。パドルをカッティングボードがわりに辻さんが手際よく調理してくれる。まさにカヌーならではの調理法だ。

気温は22度。かすかに風がそよぎ気持ちがいい。秋晴れの下で食べる、辻さんお手製のひき肉とキムチの韓国風うどんはまた格別。

 

日本最北の大本流にいよいよキャスティング

休憩タイムでさっそくフライフィッシングに挑戦してみる。が、初めての大本流での釣り、どこにどうしていいのやら皆目見当がつかない。辻さんにポイントを教えてもらうも、普段渓流で使っている3番の7ftの竿と比べたら、今回初めて使う7番の9ftはまるで物干し竿。全くもって思い通りのポイントに投げられない。それでもカヌーというものは便利なもので、ウェーディングでは行けないようなポイントまで気兼ねなしに近づけてしまうのである。これはチート以外の何物でもない(笑)

キャスティングの練習も兼ねて何度かポイントを狙ってみると、突然根掛かりのような感触。力強く引いてみると、突然ラインが持って行かれた。デカイ! 初めてのタックルでろくにドラグの調整もしていなかったので、力強いトルクでズルズルとラインが引き出される。焦って辻さんを呼ぶ。竿を立てずに焦らずゆっくりと、というアドバイスを聞きながら、ロッドティップを右へ左へ。寄せては引き、寄せては引きを繰り返し、なんとか岸に寄せ、辻さんにランディングしてもらおうとした瞬間にフッとロッドが軽くなる。逃げられた。残念。その後も何度か場所を変えてトライするが、アタリがない。

大本流の中州からキャスティング。カヌーならではのポイントである。が、釣れない(笑) 自分のキャスティングと釣りセンスのなさにガッカリ。

いたるところに魚を取る「梁(やな)」のように岩が並んで顔を出している。これをアイヌ語で「テッシ」といい、天塩川の由来にもなっている。

ミサゴは英名オスプレイ。上空でホバリングし、獲物を見つけると急降下して水面に飛び込み仕留めるそうだ。あの木の先端は彼の特等席らしい。

あまりの心地良さにパドリングを忘れ、カヌーの上でうつらうつらとしていた。まるで水上のハンモックのように気持ちがいい。

今日のキャンプ地へと向かう途中、キタキツネと目があう。すぐにひらりと身をひるがえし、茂みの中に消えて行った。

 

夢のようないち日の終わり。ただひとつの心残りがあるが……

なんとなく夕暮れ前にキャンプ地に到着。お気に入りの場所を見つけテントを張り、夕食と焚き火用の薪を集める。調理は辻さんに任せ、日没までのわずかな時間に、目の前の川で性懲りも無くキャスティング。が、やはり釣れない。フライフィッシングがメインの旅ではないといえ、1匹ぐらいは釣れてもらいたい。きっとこの景色の中でワイルドレインボーが釣れたらさぞかし気持ちがいいだろうなぁ、という思いとは裏腹に、結局この日の釣果はゼロであった。
それでも空を見上げれば、とろりとした優しい色の黄昏時の空が広がり、目の前には辻さんが腕によりをかけて作ったディナー。もう何もいうことはない。焚き火を囲いながらたわいのない話をしていると、 気づけばば夜も更け、澄んだ空に月が高く上がっている。明日こそはと翌日のリベンジを誓い、寝袋に潜り込んだ。

じつは自分は料理がからっきし不得手。ひとりのときはレトルトやおにぎりだけになってしまうが、辻さんがいると毎回の食事が楽しみになる。

まさに絶景! まるで映画のワンシーンのように絵になる景色だが、全く釣れない……。フライを変えてみるも全くもって反応なし。

薪にも種類があることを初めて知る。軽くて燃えやすいもの、重くて長時間燃えるもの。ただただ集めればいいというものではなかった。

以前『H2O Style』でもお伝えしたラップランド地方に伝わるKUKSA(ククサ)。贈られた人が幸せになるという木製マグカップである。

日が暮れると、ところどころに甲高い鹿の鳴き声が響き渡る。雄鹿の縄張り争いの声で、秋の訪れを告げる風物詩だそうだ。

遠くに夜汽車が走る。乗っているのはジョバンニとカンパネルラか。次に来るときは本を1冊持ってこよう。

すでに気温は一桁台。焚き火で暖をとりながらたわいもない話をする。会話が途切れても川の音が繋いでくれる。

深夜に寒さで目がさめる。テントから這い出てみると月は沈み、天の川が。引き込まれるような空の深さに、気づくと寒さを忘れていた。

 

STAFF CREDIT
Photography:Takaaki Tsukahara
Writing:Takaaki Tsukahara

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